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ファッションブランドにおける「定番」の使い方について雑感(3)

ここまでの投稿で相当数の方が二度と戻って来ないという状況になっているであろうことが容易に想像できますが、
細かいことは気にせず、筆を進めます。

前回の投稿までで、ファッションブランドにおいて適度に力を抜いた投球というのは一体何なのか
というところまで来たわけですが、
ここで、別のブランドについてのお話をしてみたいと思います。

私が数年前から色々とお世話になっていて、ご指導・ご鞭撻さらに激励を頂戴しているブランドに、
Kさんというファクトリーブランドがあります。
このブランドはファクトリーブランドであると同時に、いわゆるデザイナーズ・ブランドでもあるわけですが、
デザイナー独りが立っているという、ある意味困った感じのデザイナーズ・ブランドとは異なり、
むしろ、デザイナーさんを中核としたブランドスタッフ全体で意見を出し合ってコレクション全体を形成していく、という、
一般の人が抱くデザイナーズ・ブランドのイメージとは少し異なった運営をされているそうです。

そして、その某Kさんですが、そもそもはファクトリーブランドなので、
特に素材回りに関する技術研究・開発には並々ならぬものがある様子で、
プリントやテキスタイル加工においては極めて高いクオリティの商品を数多く展開されているのが特徴です。
適度なデザイン性の高さの上に際立って高い着心地の良さが加わったアイテムばかり展開されているので、
普段使いからお出かけ着まで幅広くカバーするという、マルチタレント的な活躍を期待できるブランドであるといえますね。

さて、その某Kさんが発表されるアイテムの中に、
毎シーズンほぼ同じパターンとテキスタイルで展開される定番の長袖カットソーというものがあります。
この定番のカットソーですが、デザインはとてもシンプルなものでして、
Kさんが発表されるどのアイテムとも合わせやすいものになっています。
もちろん、Kさんはデザイナーズ・ブランドですから、ディテールにはしっかりと手を加えてあります。
あまり細かく書くとブランド名を特定できてしまうので敢えて曖昧に表現しますと、
要するに、まぁねじったりひねったりしてあるわけです。

ここで特筆すべきなのは、
Kさんが展開されている定番のアイテムがカットソーであるという点です。
上記の通り、このカットソーにはデザイン面でしっかりと手を加えてありますので、
比較的涼しい春や秋などは、トップスとしてこれ一枚で充分いけてしまいます。
冷却装置が完備された昨今、冷え性の女性なら真夏でも長袖を着るよ、という方もいらっしゃるでしょう。
真冬であれば、厚手のニットやカーディガンのインナーとしてカットソーを着る、というのは良くあることですね。
見事にオールシーズンいけます。

しかも、です。

カットソーといえば、同じ人が同じ商品を何度も購入するものとして有名なアイテムです。
実際のところ有名なのかどうかについてはリサーチしていないので定かではありませんが、
着心地が良くて使い易くてデザイン的に気に入ったカットソーというのは、多くの人がヘビロテで着倒していたりするものですよね。
そして、ヘビロテで着倒すことで結果的に洗濯の回数が増え
したがってそのカットソーがダメージを受ける頻度も上がってくるわけです。
そうすると、消費者としてはどう考えるのかというと、まぁ大体、
傷んで見栄えが悪くなってきたので全く同じものがまた欲しくなってくるわけです。
ここで「また別の似たようなカットソーを探してそれを買いたい」という風には、まぁなりませんね。

それはなぜか。

答えは意外と簡単で、
着心地が良くて使い易くてデザイン的に気に入ったカットソーなんていうものは、
そうおいそれと見つかるものではないのだということを、
服が好きな人であれば経験上知ってしまっているからです。
もしかしたら、永遠に見つけられない人だっているかもしれないというレベルのお話です。

やっと見つけたと思ったお気に入りのカットソーがそのシーズン限りのものだった!
よくあるお話ですね。

そこで、Kさん定番カットソーの出番です。
何度も記していますがKさんは素材に徹底的にこだわるファクトリーブランドです。
そもそも着心地の悪いアイテムを探す方が難しい
また、デザイナーズ・ブランドでもあります。
いい感じのデザインを放り込んであります。

こうして、まんまとブランド側の術中にはまり、
一度手中にした消費者が毎シーズン、定番商品をリピート購入してくれるようになるわけです。
毎シーズン同じパターンを使えばその分物理的なコストを削減できますし、
デザインという行為自体に時間を割かなくて良いので精神的にも時間的にも効率的です。

ついでに、カットソーといえば、色チ買いしてもらえることでも有名なアイテムです。
これについてもリサーチはしていませんが、
自分のワードローブに合うカラーリングのカットソーを何色か購入する、というのはありがちな消費者行動だと思います。
製品染めにしてしまえばカラー展開も比較的容易です。
これを定番化するというのには、
数をこなすことを期待できるアイテムを、
コストを削減しつつシーズンに1つは確保できる、という意味合いもありますね。

さらに、某Kさんある意味でしたたかなところは、
その定番カットソーの地味なディテールをたまに改良している、という点です。
改良のきっかけは、消費者からのフィードバックだったり、あるいはブランド自ら気が付いた場合だったりするでしょう。
「定番」という文化に甘えずに進化までするなんて素晴らしい姿勢ですね。

ただ、あくまでも地味な改良なので、今季の新作というには変化に乏しいわけです。
デザイナーズ・ブランドなのに前季と似たような商品を出すのか、というような指摘もあり得るかもしれない。
そこで出てくるのが「定番」というキーワードです。

「あれ、この商品見たことありますよ」
あ、これは定番なんです

便利ですね
複数のシーズンにまたがって似たような商品を作ったとしても、
キーワード1つ使ってあげることでデザイナーズ・ブランドとしての品格も保てます。
そもそも「定番」というのは、複数のシーズンにまたがった似たような商品のことを指すわけですから、
当たり前といえば当たり前なのですが。

というわけで、
オールシーズンいける、リピートを期待できる、色チ買いを期待できる、キーワードで乗り切れる、と、
上記のような定番カットソーの利点をとりあえず4つばかり挙げてみました。
要するに、力を入れて作った新作アイテムで思ったように利益を得られなかった場合の、
いわばリスクヘッジとしてのセーフティネット的な意味合いも見出すことができるわけです。

デザイナーズ・ブランドおいて適度に力を抜いた投球というのは、
以上のように、上手にリスクヘッジされた商品展開にあるわけですね。
Kさんの場合、展開されているアイテムは日常使いできる適度なデザイン性のものが多いので、
定番カットソーの持つセーフティネットとしての重要性というのは低いのかもしれません。
でも、無いよりは有った方が良いわけです。
まして、某Aさんのようにエッジーなブランドであれば、なおさら有った方が良いわけですね。

それでは、例えば某Aさんでいうところのリスクヘッジとは一体何なのか
という風になるわけですが、これまた長くなってしまったので、
続きは次回へ

ファッションブランドにおける「定番」の使い方について雑感(1)
ファッションブランドにおける「定番」の使い方について雑感(2)
ファッションブランドにおける「定番」の使い方について雑感(3)
ファッションブランドにおける「定番」の使い方について雑感(4)

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