メンズウェアのクリエイションとテクニック~若手スチリスト達の仕事

過日、文化服装学院で「メンズウェアのクリエイションとテクニック~若手スチリスト達の仕事」というシンポジウムが行われた。
これは、現在文化学園服飾博物館で12/20まで展示されている「おとこのおしゃれ」展に関する企画であり、文化ファッション大学院大学の櫛下町伸一教授が座長となり、4名のパネリストに迎えてメンズファッションを語るというものであった。

ここで呼ばれたパネリストは以下の4名。全員文化服装学院の出身者である。

嶋崎隆一郎:1966年生まれ。無印良品のメンズデザイナーを経て1994年東コレデビュー。beige shop及びRYUICHIRO SHIMAZAKI hommeで活動していた。現在はDKNY MENのデザイナー。

有田一成:1971年生まれ。サヴィルロウのギーブスアンドホークスでカッティングの修行、その後銀座の壹番館でテイラリングの修行をし、2003年青山にTAILOR&CUTTERをオープン。

森崇:1973年生まれ。ISSAY MIYAKE MENのアシスタントデザイナーを経て、2005年よりデサントのMunsing Wearのブランドリバイバルプロジェクト「Penguin」のメンズデザイン担当。2006年には自身のブランドmolficを設立。

内田聖:1980年生まれ。レディスのクチュールを目指していたがメンズテイラードに興味を持ち転向する。
2005年中央区の支援を受け(中央区活性化プロジェクト)事務所を構え、HIJIRI UCHIDAをスタート。


おとこのオシャレというテーマではあったが、それをスーツ論に絞ったカタチで、各人による自己経歴からスタート。
(男のオシャレをスーツに絞るのも強引な話だとは思うのだが…)
以下、各人が語ったことを抜粋。(正確にメモしたわけではないので、間違っていたら失礼)

【嶋崎隆一郎】
「最初、無印良品に勤め、そこでは肌着にはエジプト綿を使おうとか、Tシャツには中国の綿を使おうとか、糸の段階から企画するという事が出来た」
(また、かつては「無印で『普通のデザイン』というのを考えさせられた」とも語っている)
「RYUICHIRO SHIMAZAKI hommeやbeige shopで自分のブランドを始め、海外へ出るためパリでbeige shopの展示会を開いたが、自分の作った服が安っぽく見えた」
「向こうではデザイン服は若者が着るのではなく、それなりに歳を取った人が着る。彼らが着る服ではなかった」
「デザインを追求していった結果、規則を破りすぎた服になっていたと反省し、きちんと向こうの服を作ろうと、DKNYに入った」

【有田一成】
「文化服装学院のメンズコース第一期生として入学したが、卒業時にもっとメンズを勉強したいと思った」
「メンズといえばスーツ、イギリスだろうと渡英し、ギーブスアンドホークスで修行した」
「現在提案している、フレア袖、カッタウェイフロントといったカタチのスーツは、わかりやすいものとして提案しており、これが自分のデザイン全てではない」

【森崇】
「Penguinでデザインをやっているのにもわけがあって、現在はヘルスコンシャスの時代だと思っている。そこからスポーツというキーワードに結びついてそうなった」
「スーツの新しい提案として、フォルムより素材のデザインを考えている。それは今までの自然素材メインでなく、化学繊維でのスーツ」
「化繊には、実は(織)柄が存在しないと言っていい。あるのは唯一リップストップをいうものだけだ」
「化繊の織物を生産することにも制約があって、天然繊維であれば小ロットから作れるが、化繊になると何万反という規模でなければ作れない」
「化繊のスーツを通じてライフスタイルが変わる事を考えている。例えば撥水生地で作ったスーツであれば、雨が降っても帽子だけ被れば、傘が要らなくなり、持ち歩く必要が無くなる。
A4サイズのバッグに折りたたんでしまえるスーツがあれば、今までのようにスーツバッグを持ち歩く必要がなくなり、その分他のものが持ち運べるようになる」
「(化繊生地を縫うことで出来るピリ(引きつれ)が出来ることについての問いには)そもそもピリが出来て何が悪いのかと考えている。今までの感覚ではピリは縫製不良とみなされたが、使用上で何も問題はない。であればそれも特徴と考えればいい」

【内田聖】
「在学中は、自由にやれるレディスが面白かった。しかしそれはそのままエスカレートし、現実離れしていってしまった。それに気付き、制約のあるメンズでどこまでやれるかを試したくなった」
「スーツには構造上、いじっていい部分と悪い部分がある。だから、いじっていい部分に手を加えていく。
例えばスーツをキャンパスに見立て、生地の部分に刺繍をしたり、ジャケットの裾を長くし、切りっぱなしにしたり」
「20代に向けたスーツを作りたい」

以上のようなことが話された。
これだけでほぼ時間いっぱいとなり、ディスカッションまでには到らなかった。
わずかながら互いのスーツに対する見解が述べられたが、それは割愛する。
最後に質問タイムがあったので、挙手して質問をさせていただいた。
「日本に暮らす我々にとってはスーツというのは、生活に合っていないものです。
気候も(ヨーロッパと違い)高温多湿ですし、正座をしたりするのもスーツのデザインに合っていません。
ある意味、日本人にとってスーツは完成されていない服だと思っています。そんなことをどう思いますか?」

司会の櫛下町教授が「これ(に答えるの)は本場の有田さんですか」と有田さんに振られ
僕は、日本人が海外現地に行って、恥ずかしいと思われないスーツを、と思って作っています。
また、僕はスーツを通じてモノを大切にするという事を伝えていきたいと思っています」
と回答された。
つまり日本人のスーツというのは意識されていないようだ。
櫛下町教授は追って「クラシコイタリアやブリティッシュ、アイビーといった各国のスーツというのがありますが、日本についてはどうでしょうか?」という質問をしてくれたが、それに対する回答は聞きそびれてしまった。
(聞いていた人がいたら教えて下さい)

レポートを仕上げるのが遅くなったため、あと一週間ほどだが、歴史的な服と共に、彼らの服が展示されているので、興味のある人は観に行ってはどうだろうか。

ちなみに以下のようなニュースがある。

ダナ キャラン ジャパン(港区)は11月10日、原宿・キャットストリート沿いに「DKNYキャットストリート店」(渋谷区神宮前5、TEL 03-6418-8185)を正式オープンした。

 同店は、「DKNY」業態では日本初の旗艦店。ダナ キャラン ジャパンが、親会社のオンワード樫山と共同で開設した。場所は、「オークリー」「バートン」などが出店する「神宮前トーラス」の地下1階〜2.5階(計3.5階層)。2階ウインドーには大きく「DKNY」のロゴを配した。

 店舗面積は約600平方メートル。1階・2階では、DKNYとジーンズライン「DKNY JEANS」のウィメンズウエア、アクセサリーを、地下1階では、メンズ商品を展開する。中2階の2.5階には、日本初上陸となるホームコレクション「Pure DKNY」コーナーを開設する。

 各ラインの商品はいずれもフルライン展開で、香水やアイウエア、時計などのアクセサリーも充実させた。営業時間は11時〜20時。

livedoor newsより

嶋崎の活動に興味のある人はこちらへも行ってみてはどうか。
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Comments

“メンズウェアのクリエイションとテクニック~若手スチリスト達の仕事” への2件のフィードバック

  1. 日本人とスーツの関係についてはあまり考えられていないようですね。靴だって座敷に上がったりするわけだから、あまり合っているとは思えないけれど。いまのところ、西洋の人にどう見えるかが問題なのですね。

  2. >masato
    そうなんです。
    日本人のスーツという意識は無いようですね。
    ちょっと残念でした。

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