絶対比と相対比

メタボなる言葉が太っちょという意味で浸透してしまったこのご時世。

もともとメタボリックというのは代謝という意味であって、メタボリックシンドローム=代謝症候群である。
しかし実際の意味は代謝異常症候群。
そこに太っちょという意味はない。

なんだかダイエット=規制食だったのが、痩身の意味に変わったのと同じような気がする。

さて、製薬業界に入って以来、生活習慣病の薬をPRし続けてきたが、どうやらそれほど生活習慣病というのは恐るべきものではなく、その治療薬も不必要に売れすぎているのだと気付いてしまった。

タバコの箱には「喫煙者は非喫煙者の1.7倍心筋梗塞を起こしやすい」と注意書きがされている。

では、非喫煙者が心筋梗塞を起こす割合ってどんなものだろう?


正解は、およそ40歳以上、他にリスクファクターのない人では5年間追跡して3人くらい。絶対値で3%。
この1.7倍っていうと5人。
タバコを吸い続けても、絶対比では2%しか心筋梗塞の割合は増えない。
これは大騒ぎするほどのリスク上昇だろうか?
私にはそう思えない。
(とはいえ、タバコは百害あって一利なしだが)

さて、高脂血症(今は脂質異常症か)の治療薬を飲んだ場合、どれくらい治療効果があるのだろう?

実は1次予防(心筋梗塞初発予防)で、3人が2人になるくらいである。
そしてこの1%ダウンを「33%減らすことができました!」と大騒ぎする製薬会社。
参考:日経ビジネス「コレステロール低下薬で大論争」

5年間通院および金銭コストを掛け、副作用のリスクを負いながら、100人に一人しか救えない薬。
果たして、そういう人に飲ませる必要があるのだろうか?

2次予防(心筋梗塞再発予防)だと、再発の割合は100人中10人を超える発症率になりますし、それの予防効果はもっと高くなる。
ですから、再発予防のためにはその薬を飲んでもいいかもしれないとは思う。

高血圧においては、実薬群と偽薬で差がつくことは明白になっているので、現在偽薬との比較試験は行われていない。
(その差が大したことないと、私は言っているのだけど)
しかし2次予防試験において、高血圧治療薬と偽薬を高血圧でない患者に投与した試験がある。
HOPE試験

これによると55歳以上(平均年齢66歳)のハイリスク患者に平均5年間ACE阻害薬(高血圧治療薬の一種)と偽薬を投与し、差はACE阻害薬群14.0%,偽薬群17.8%であった。

二次予防でさえ、これだけの差しかつかない。

そうしていくと、メタボリックシンドロームというのは、あまりに恐るべきことではないのだと考えられる。

3人が2人になり、33%ダウン。
このような絶対比と相対比を用いたひっかけは、あちこちに潜んでいて、こないだある定食屋に行ったら「Aの食材はBの食材の5倍の鉄分を含んでいます!」みたいな書き方をしていた。
しかしよくよくみてみると、100g中、0.2mgの鉄分が1mgになっているだけだったり、元々が極めて小さい値に掛け算をしている。
これはずるい。

そんなわけで、相対比を見るときは、絶対値を調べて、絶対比も計算するクセをつけるといいと思う。

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ここのピザが、宅配ピザよりも美味しいと評判です。


Comments

“絶対比と相対比” への3件のフィードバック

  1. http://blogs.yahoo.co.jp/margielamarniのアバター
    http://blogs.yahoo.co.jp/margielamarni

    HOPEが示したのは「メタボリックシンドロームが恐ろしいか」ではなく「降圧薬が心血管イベントを予防するかどうか」ではないでしょうか?メタボが怖いかどうかはメタボの人を含む一般人口のコホート調査の結果を見ないとわからないと思います。

  2. あ、薬が必要以上に売られているという点に関しては同意見です^^海外はともかくとして日本では治験は一大ビジネスなので研究者も必死ですし。数字のトリックを見抜けるかどうかは雑誌の査読者の統計センス次第ですね。

  3. >margielamarni
    的確な指摘ありがとうございます。
    HOPE試験はその通りですし、メタボに関してもまだその通りです。
    また各疾患の重症度や、各疾患の重なりかたで随分違ってくることでしょう。
    ただ、生活習慣病の一次イベント発症率に関しては、どうやっても10%には満たないだろうと想定できますし、リスク無し群でも2,3%は発症するでしょう。
    そして薬剤の治療効果も50%未満だろうと思います。(これもエビデンスなしですが、多くの試験を参考にして)
    そうなってきた場合に、それを怖いと思うかというと、私は怖いと思えないんですね。

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